命の選別が始まりました

コロナ感染症の猛威は留まるところを知らず、われわれの医療現場にも多大な影響を及ぼし始めました。
ついに助かる命も助けられない状況が始まっています。
コロナ感染症の高次医療機関が地域によっては満床となり、われわれ中等症・軽症コロナ受け入れ病院(東京曳舟、あそか、大阪暁明館、はくほう会セントラル、赤穂中央病院)からの転床ができない地域が出始めました。
ある地域では「高次病院は80歳以上のコロナ感染症患者の中等症・軽症病院からの受け入れを行わない」事になりました。
従来よりDNR(人工呼吸などの救命処置を希望しない)患者は高次病院に送っても新たに出来る事が無いので我々の病院で最後まで看取っていました。しかし今はDNRを望まず、生きる希望や意欲のある人も高次病院は取らなくなりました。
私はこれを一番懸念していました。
さて5病院でレスピレーター管理やECMO管理ができるのか。5病院ともレスピレーターはありますし、ECMOも3病院にあります。80歳以上で生きたいと思う患者にはこれらを使うのが筋でしょう。
しかしそれだけのマンパワーが確保できるのか。重症者はコロナだけでは無いですから。
カネの話になりますが、高次病院は1床1950万円の開設補助金が出るのに対し、われわれ中等症・軽症受け入れ病院は450万円です。
高次機能病院はICUの1床あたり確か1日40万円だかの病床確保の保証金が出るのに対し、われわれは7.1万円です。
これで高次機能病院の断った高齢患者に人工呼吸器やECMOなどの濃厚治療をやれというのも理不尽な気がします。
2週間ほど前に我々の病院の中等症・軽症コロナ病棟から重症化した90歳の患者を高次病院へ搬送しました。その後連絡がないので、患者は少なくとも死亡はしていません。退院の連絡もないので療養中でしょう。
時間経過を考えると、軽症化して退院待ちじゃないかと思います。この人は恐らく助かりました。
しかしこの方より10歳若い患者は、高次病院に今では送れなくなりましたので、今なら…
いくら患者や家族に生きたい、生きてもらいたい希望が有っても、それこそカネがあって自費でも治療を望んでも、治療をしてもらえない事態になっています。人生100歳時代ですから、健康な80歳以上、社会活動の旺盛な80歳以上も沢山いるのですが。
命の選別、トリアージは災害医療など予想できない緊急事態では行わざるを得ません。しかしコロナ感染症が問題となってから1年近い時間が経っているのに、いまさら命の選別でしょうか。
われわれ医療はコロナに敗北しました。感染症の治療でトリアージを持ち出すのはもはや敗北です。
敗北の原因は一つではありませんが、「人材を含めた医療資源の有事における最適配分を迅速に行うシステムを持たなかった事」が最大の敗因だと思います。
特措法の改正が18日からの国会で審議されますが、新型感染症の場合は全ての医師、看護師に感染症治療機関への応召義務を付けたらどうでしょう。
例えば病院は常勤医師、看護師数の5%、地区医師会、看護協会も5%を応召される。応召に応じない場合は応召期間中は診療報酬の10%を天引きし、コロナ対策に納める。
病院、医師会に属さず、組織されていない医師も応召期間中は診療報酬の10%をコロナ対策の為納める。
同時に応召された医師、看護師は従来の給与に加え、5万円/勤務の危険手当を付与する。
このような仕組みを作れば、2週間ローテーションくらいで医療従事者は新型感染症に対応できるのでは。
コロナには現在の日本の医療提供体制は脆弱でした。しかし同時に平時の医療提供体制は日本は世界最高水準にあります。平均寿命、平均余命、乳幼児死亡率などの健康指標は常に世界最高水準です。
このシステムを大きく崩すことなく有事に対応させる仕組みを作る事が最も良い方法でしょう。
既に一部ではやられているように、イザというときの箱(感染症用病棟)を作っておく、あるいはすぐ作れるようにして置く。これはある程度出来つつあります。
そこで勤務する医療スタッフを緊急応召できれば一定の解決は図れると思います。
さて、伯鳳会グループのコロナ受け入れ5病院は全て中等症・軽症受け入れ病院です。しかし高次病院が転院に条件を付けるようになってきた現在、中等症・軽症で入院して来て重症化した、しかし転院先が無い時どうするのかを決めないといけません。
例えば80歳、生きる意欲在り、レスピレーターが必要、高次病院の転院基準に合致しないため転院できない。この患者をどうするか。
医療人は目の前の患者は何とかして助けようと思うでしょうから、挿管してレスピに乗せるでしょう。こうなるともう人手は足り苦しいですが。
高次病院の受け入れ制限がある時点で、われわれも転院不可の患者は断るのか。例えば80歳以上の中等症・軽症患者は入院させないとか。
これはちょっと出来ない相談だと思います。
緊急事態ですから、あらゆる場面で無理や無茶や理不尽が大量に行われる事でしょうが、毎日泥縄作戦でワクチンの普及を待つしかないのかと思います。
繰り返しになりますが、われわれ医療界はコロナに敗北しました。しかし医療界の上位組織である国政が利敵行為(コロナ感染拡大につながる行為)を何時までも行い続けたのも敗北の大きな原因です。
後ろから鉄砲を撃たれて、戦いに勝てるはずがありません。
P.S.
民間病院のコロナ診療に対する関与が低すぎる事がここ数日前から大きな問題となっています。私もその通りだと思います。
しかしコロナ患者の診療拒否、入院拒否を貫いていた病院も次々と患者や職員がコロナに感染しており、一部はクラスターを発生させ、全ての診療機能が損なわれた病院もあります。
コロナと戦えばコロナに対応するノウハウが院内に蓄積されます。院内で感染が発生しても適切な対応が取れ、悲惨な状況は起こり難いと思います。実利的にもみんなコロナと戦いましょう。
コロナの影響で全ての疾患が減少傾向にあり、増えているのはコロナだけです。経営的にも国民最大の克服過大であり、補助金のあるコロナ感染症対策を行う方が私は有利だと思います。
なによりも医療人の理念、社会の期待に応えない病院は長期的には苦しいのでは。誇りをもって働けないのでは。
この記事へのコメント
六中全会でも日本の医療制度の成功と失敗について、テーマに扱っていくべきだと思います。
美国もコロナ軽視のトランプが弾劾訴追されSNSから追放。
アジア系米国人、アフリカ系米国人の支持を受けたバイデン大統領が誕生しました。
2021年は中国、米国を中心としたコロナ克服の年になると期待しています。